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第10話 地下牢の響きと辺境伯の統治術

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-11-30 14:40:27

 しばらくの間──地下牢に苦痛に苦しみ、のたうち回る音とともに叫び声が響きわたり、恐ろしい光景が広がっていた。警備兵や捕らえられていた囚人は、悪さは絶対にしないと心に誓っていた。

 牢屋を後にする際、ユウは最後に静かに言い残した。

「お前らも、あまり悪さをしていると──同じ目に合うかもな。」

 その言葉が響くと、囚人たちは一様に顔を歪めた。すでに戦意も希望もない。今ここで支配しているのは、恐怖と後悔だけだった。

 牢を出たユウは、長椅子に腰を下ろし、大きく息を吐く。一瞬、すべてを忘れるように目を閉じた。それまで漲っていた怒りは、すでに消えていた。今のユウの顔は──ただの少年に戻っていた。その変化に、残っていた下級の警備兵たちは、戻ってきたユウに気づいていなかったのも無理はない。先ほどまでの威圧感に支配されていた彼らにとって、この穏やかな表情は、まるで別人に見えたのだろう。

(やはり、やりすぎたか……)

 ユウは内心で自嘲する。辺境伯としての冷徹な裁きは必要だった。だが、彼の本質は、どこまでも自由を愛する少年だ。他者に苦痛を与えることに、喜びを感じる性分ではない。にもかかわらず、あの地下牢で、彼は敢えて恐怖を植え付けた。それは、二度とあのような虐待が繰り返されないようにという、彼の強い覚悟の表れでもあった。

 しばらくして、具合の悪そうな警備兵たちが戻ってきた。ユウは軽く目を開け、低く呟く。

「悪かったな……悲惨なものを見せてしまったな。」

 警備兵の一人がすぐに答える。

「い、いえ……謀反の罪は重罪です。一族が巻き込まれなかっただけでも幸運だと思います!」

 もう一人が続けた。

「牢にいた者も皆、改心したようでした!」

 ユウはその言葉に、ふと考え込む。

(改心、か……。恐怖は一時のものだ。果たして、どれだけ続く?)

 この世界では戦争や盗賊、猛獣や魔物退治など、命が軽く消えることが当たり前にある。だからこそ、彼らは慣れているのかもしれない。警備兵たちは、思ったよりもダメージを受けていないようだった。

 ──これじゃ、抑止力にならなかったかもな。

 ユウは少しばかりの失望を感じた。ただ恐怖を与えるだけでは、根本的な解決にはならない。人は、恐怖だけでは長く動かない。より本質的な動機、あるいは明確な「餌」が必要だと、彼は経験から知っていた。

 ソファから立ち上がり、テーブルにゴソッと大きな皮袋を置く。その中にはノアが純度を上げた魔石を加工したものが詰められていた。

「お前たちに任務を与える。」

 警備兵たちは不思議そうに皮袋を見つめる。しかし、まだ恐怖が完全に拭い去れていないのか、隊長さえも言葉を発せずにただユウの顔を見ている。ユウはゆっくりと言葉を継いだ。

「これは魔石だ。光るように魔法を付与されたもので、これを路地裏へ設置する手配を頼む。」

「ちなみに──売却して小遣い稼ぎなどと考えるなよ。」

 その瞬間、空気が重くなる。警備兵たちは互いに顔を見合わせ、不安そうに視線を交わし始めた。

「そうだな……渡した数と、設置されている数が違った場合は──犯人探しなど面倒なことはしない。」

「その場合は連帯責任として、お前たち全員を処罰対象とする。」

 再び、場の温度が下がるような感覚が広がる。

「だが、お前らは警備兵だ。そんなことをするヤツはいないよな?」

 全員が呆然とし、言葉を失った。処罰対象──それが何を意味するのか、彼らはすでに知っている。「アレ」を見た後の”「処罰」”という言葉の重みを理解しているからこそ、警備兵たちの表情は強張ったままだった。しかし、その中でふと、一人の兵士がかすれた声を出す。

「防犯に……いい案ですね……」

 その言葉を皮切りに、二、三人が続ける。

「自分も……あの暗さは問題があると思っていたんです……」

「警備兵が口出しできる問題ではなかったけど……貢献できるなら……」

 戸惑いながらも、彼らの間で思いが二つに分かれ始める。一方では、恐怖に支配され、何も言えずただ顔を見合わせる者たち。もう一方では、これは街の治安を良くする策だと認識し、貢献の意志を持ち始める者たち。

(そう、それでいい。恐怖は、あくまできっかけに過ぎない)

 ユウは警備兵たちの変化に満足感を覚えた。恐怖だけで縛りつける統治は、長続きしない。だが、そこに**「利」**という明確な動機を与えれば、彼らは自ら進んで動く。

「それと、これは指示書だ。路地裏の見回りも頼むぞ。」

 ユウがテーブルの上に書状を置くと、警備兵たちはまだ緊張を滲ませながらもじっと見つめる。

「ま……最後のひとつは売っても構わん。成功報酬だな。飲んで食ってもお釣りがくる額だろう。それどころか、毎週飲みに行けるぐらいはある。やる気が出るんじゃないか?」

 その瞬間、警備兵たちの表情が変わる。途端に場がざわめき、顔を見合わせる者が増えた。

「マジか!?」「それなら、うまい酒が飲めそうだな!」

 警備兵の大半はすっかりやる気を出している。だが、ちらほらと反応の薄い者もいる。

(ああ……酒が飲めないヤツか? そうだな、飲めない者にとっては不公平だ。)

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